総務・情シス・人事には、申請方法や社内制度、アカウント設定、システムの使い方、勤怠や休暇に関する確認など、日々さまざまな社内問い合わせが寄せられます。内容は幅広い一方、同じ質問が繰り返されるケースも少なくありません。担当者がその都度回答していると、本来取り組むべき業務が中断され、対応負荷が積み重なります。
こうした課題に対して有効なのが、AIを活用した一次対応です。社内FAQや規程、マニュアルなどを参照しながらAIが回答できれば、社員自身で解決できる問い合わせを増やせる可能性があります。
ただし、すべてをAIに任せればよいわけではありません。
この記事では、社内問い合わせ対応にAIを活用する考え方から、総務・情シス・人事で任せやすい問い合わせ、必要なナレッジ整備、人へ引き継ぐ仕組み、導入の進め方まで解説します。
社内問い合わせ対応が負担になりやすい理由
社内問い合わせ対応の負担は、件数の多さだけで生まれるものではありません。同じ質問への繰り返し対応や情報探索、担当者への依存などが重なり、業務を圧迫します。
まずは、社内問い合わせが負担になってしまいがちな理由について整理します。
理由1|同じ内容への回答が繰り返し発生する
総務や情シス、人事には、回答内容がある程度決まっている定型問い合わせが多く寄せられます。たとえば「この申請はどこから行うのか」「パスワードを変更するにはどうすればよいか」「休暇の申請ルールを確認したい」といった質問です。
1件あたりの対応時間が短くても、繰り返されれば工数は積み上がります。問い合わせのたびに作業を止めて回答する必要もあるため、こうした定型的な質問はAIによる一次対応を検討しやすい領域です。
理由2|情報はあっても社員が自力で見つけられない
社内FAQやマニュアル、規程が整備されていても、保管場所が分散していたり検索しづらかったりすると、社員は必要な情報にたどり着けません。結果として「担当者に聞いた方が早い」という行動が定着し、問い合わせが集中します。
AIを活用する場合は、社員が自然な言葉で質問し、必要な情報にアクセスできる状態をつくることが重要です。
理由3|回答できる人が限られると属人化する
問い合わせ対応が特定の担当者の経験や記憶に依存すると、回答内容や対応速度に差が出ます。詳しい担当者が不在の場合、回答が遅れることもあります。
効率化するには、個人が持つ知識をナレッジとして整理し、組織全体で利用できる状態にする必要があります。
AIによる一次対応で社内問い合わせの流れを変える
AI活用の目的は、担当者の代わりに文章を生成することではありません。問い合わせが発生するたびに担当者が回答する流れを見直し、まずAIで解決できるかを確認する仕組みに変えることが重要です。
AIが社員からの質問を受け付ける
従来のFAQでは、社員自身がカテゴリをたどったり、適切な検索語を考えたりする必要があります。自然言語による入力に対応した生成AIやAIチャットボットであれば、「経費精算の締め日はいつですか」「VPNにつながらないときは何を確認すればよいですか」といった文章で質問できます。
自然な文章で質問できれば、社員にとって情報を探すハードルを下げやすくなります。AIは、必要な情報へたどり着く入口として活用できます。
社内情報をもとに回答を返す
社内問い合わせでAIを活用する場合は、一般的な知識ではなく、自社の規程やマニュアル、FAQなどを根拠に回答させることが重要です。生成AIの回答を社内情報に結び付ける方法の一つとしてRAGがあります。
RAGは、質問に関連する情報を社内文書などから検索し、その内容をもとに生成AIが回答する仕組みです。大規模言語モデルだけに回答を任せるのではなく、外部の知識を検索して回答に利用する考え方です。
ただし、参照する文書が古かったり、似たルールが複数存在したりすれば、回答品質も不安定になります。AIの仕組みと同時に、参照元となる情報の整理が必要です。
解決できない問い合わせだけ担当者へつなぐ
AIによる一次対応では、すべての問い合わせをAIだけで完結させようとしないことが重要です。社内ルールを確認すれば回答できる質問はAIに任せ、個別判断や例外対応が必要な質問は担当者へ引き継ぎます。
たとえば、制度の利用条件を案内することはAIでも対応しやすい一方、「自分のケースでは特例が認められるか」といった判断は人が行うべきです。役割を分けることで、担当者は判断や調整が必要な業務に集中しやすくなります。
総務・情シス・人事でAIに任せやすい問い合わせ
AIによる一次対応に向いているのは、回答根拠が明確で、手順やルールが一定している問い合わせです。総務・情シス・人事では、それぞれ対象となりやすい質問が異なります。
ここでは、総務・情シス・人事の3部門別に、AIに任せやすい問い合わせの例を紹介します。
総務|社内ルールや申請方法に関する問い合わせ
総務では、経費精算、備品の申請、施設利用、各種申請、社内制度などに関する質問が対象になりやすいでしょう。申請書の提出先や締め切り、必要な手順など、規程や手順書を確認すれば回答できる内容です。
一方、例外処理の可否や承認そのものは別です。AIが「申請方法を案内する」ことと、「申請を承認する」ことは分けて考える必要があります。まずは案内業務をAIに任せ、人の判断が必要な部分は既存の承認フローに残す設計が現実的です。
情シス|アカウントやシステム利用に関する問い合わせ
情シスでは、パスワード、アカウント、PC設定、SaaSの利用方法、VPN、社内システムの操作など、繰り返し発生しやすい問い合わせがあります。
操作手順や確認項目が決まっている質問であれば、AIがマニュアルをもとに一次回答できます。
ただし、システム障害やアカウントロック、アクセス権の付与など、実際の作業や権限変更を伴う問い合わせはAIの回答だけでは完結しません。一次切り分けまではAIに任せ、必要に応じて担当者へのエスカレーションにつなげる設計が重要です。
人事|制度や手続きに関する問い合わせ
人事では、勤怠、休暇、福利厚生、就業規則、入社・退社時の手続きなどが対象になります。制度の概要や申請手順など、全社員に共通するルールを案内する用途ではAIを活用しやすいでしょう。
一方、評価、処遇、個別の労務相談などは、状況に応じた判断や慎重なコミュニケーションが必要です。AIに任せる範囲は制度の説明や手続き案内までとし、個別判断が必要な内容は人事担当者が対応する、といった線引きが必要です。
AIを入れる前に社内ナレッジを整える
社内問い合わせ対応をAIで効率化したい場合、ツール選定より先に確認したいのがナレッジの状態です。
AIによる回答の品質は、参照する情報の状態に大きく左右されます。情報が古い、重複している、管理場所が分からない状態では、正しい情報を根拠に回答することが難しくなります。
AIを活用する前に整えるべきポイントは次の通りです。
FAQ・規程・マニュアルの情報を整理する
まず、問い合わせ対応で使っている情報がどこにあるかを整理します。社内FAQ、規程、マニュアル、手順書、ポータルサイト、過去の問い合わせ履歴など、回答根拠になっている情報を洗い出します。
重要なのは、AIの参照対象に大量の文書を追加することではなく、「この質問には、どの情報を正として答えるか」が明確になっていることです。似た内容の文書が複数ある場合は、正式な参照先を決める必要があります。
古い情報や重複した情報を整理する
AIが参照する情報が古ければ、生成される回答も古い内容になる可能性があります。制度変更前の資料や廃止済みの申請方法が残っていないかを確認しましょう。
同じ内容の資料が複数あり、記載が異なる場合も注意が必要です。AI導入を機に最新版を明確にし、不要な文書を整理しましょう。
問い合わせ履歴をナレッジ改善に使う
導入後は、AIが回答できなかった質問や、担当者へ引き継がれた問い合わせを確認します。これらは、社内FAQやマニュアルに不足している情報を見つける材料になります。
同じ質問が繰り返されているならナレッジを追加し、既存の説明で社員が理解できていないなら表現を見直します。問い合わせ履歴を活用することで、AIの回答だけでなく社内情報そのものを改善できます。
AIに任せる範囲と人が対応する範囲を決める
社内問い合わせ対応では、AIを導入することよりも、どこまでをAIに任せるかを決めることが重要です。回答速度だけを優先すると、本来人が確認すべき内容まで自動化してしまう可能性があります。
人が対応する範囲と、AI活用に関して決めるべきルールは次の通りです。
判断が必要な問い合わせは人へ引き継ぐ
AIに向いているのは、明確な情報源をもとに回答できる問い合わせです。一方、例外判断、承認、トラブル対応、個別事情への配慮が必要な質問は、人が対応する方が適しています。
「必要な情報を参照できない場合」「質問が例外条件に当てはまる場合」「個別判断が必要な内容を含む場合」など、担当者へ引き継ぐ条件をあらかじめ決めておけば、無理な自動化を防げます。
回答根拠と情報の更新ルールを決める
AIの回答品質を維持するには、どの情報を参照させるかだけでなく、その情報を誰が更新するかも決める必要があります。規程や手順が変更された際にナレッジも更新されなければ、古い回答が残り続けます。
情報ごとに管理部門を決め、更新のタイミングや確認方法を定めておきましょう。回答と合わせて参照元を確認できる仕組みがあれば、利用者側でも内容を確かめやすくなります。
権限や個人情報にも注意する
社内文書だからといって、すべての社員が閲覧してよいとは限りません。人事情報や経営情報、部門限定の資料など、アクセス制限が必要な情報もあります。
そのため、質問した社員を適切に認証したうえで、閲覧権限に応じてAIが検索・参照できる情報を制御する設計が必要です。AI導入時には、利便性だけでなくアクセス権限や個人情報、ログ管理なども含めて検討することが重要です。
社内問い合わせへのAI導入手順|導入は小さく始める
最初からすべての部署・問い合わせをAI化する必要はありません。対象範囲を限定し、運用しながら広げる方が課題を把握しやすくなります。
最後に、AI導入を進めるための手順についても紹介します。
1.まず問い合わせ内容を分類する
最初に、現在どのような問い合わせが発生しているかを整理します。件数が多い質問、回答が定型化している質問、担当者の判断が必要な質問などに分類すると、AIへ任せる候補を見つけやすくなります。
2.回答が決まっている問い合わせから対象にする
初期段階では、社内規程やマニュアルを確認すれば明確に回答できる問い合わせから始めるのが適しています。対象を限定すれば、必要なナレッジの範囲も絞りやすく、回答内容の確認もしやすくなります。
総務であれば申請方法、情シスであれば基本的な操作案内、人事であれば制度や手続きの説明など、自社で問い合わせ件数が多い領域から選びます。
3.利用状況を見ながら回答範囲を広げる
導入後は、利用回数だけでなく、どの質問に回答できなかったか、どの問い合わせが人へ引き継がれたかを確認します。不足しているナレッジを追加し、表現を修正しながら対象範囲を広げることで、実際の問い合わせ内容に合った仕組みに近づけられます。
AIによる一次対応は、導入時点で完成させるのではなく、問い合わせ履歴をもとに継続的に改善することが重要です。
まとめ|AIは社内問い合わせの「入口」を効率化する
社内問い合わせ対応へのAI活用では、担当者を完全に置き換えることが目的ではありません。規程やマニュアルを確認すれば回答できる定型問い合わせをAIが一次対応し、判断や調整が必要な内容を人へつなぐことで、問い合わせ対応全体の流れを効率化できます。
そのためには、総務・情シス・人事の問い合わせを整理し、AIに任せる範囲を明確にしたうえで、回答元となる社内FAQやナレッジを整備することが重要です。さらに、情報更新、権限管理、有人対応への引き継ぎまで含めて設計する必要があります。
まずは回答が決まっている問い合わせから小さく始め、利用状況を見ながらナレッジと対象範囲を改善していくことで、AIを社内問い合わせの実用的な一次窓口として活用しやすくなるでしょう。
シーサイドでは、各種AIツールの活用に関するご相談も受け付けております。
お困りやご相談がありましたら、まずはお気軽にお問い合わせください。
