生成AIやAIエージェントの普及によって、企業の業務だけでなく、顧客が情報を探し、比較し、問い合わせ、商品やサービスを選ぶ方法も変わりつつあります。AIの利用が顧客側と企業側の双方に広がる現在は、Webサイトやメールなど個別の接点だけでなく、顧客が企業を知ってから利用を続けるまでの流れ全体を捉えることが欠かせません。
本記事では、AI時代にCXがどう変化しているのかを整理し、顧客行動、顧客データ、人とAIの役割分担という観点から、企業が見直したい接点設計を解説します。
AI時代でもCXの目的そのものは変わらない
AIが顧客との接点に広がることで、CXのあり方は変化しています。ただし、CXそのものの目的がAIによって別のものになったわけではありません。
まずはCXの基本を確認し、AI時代に何が変わり、何が変わらないのかを整理する必要があります。
CXは一つの接点ではなく顧客体験全体を指す
CX(Customer Experience:カスタマーエクスペリエンス)は、顧客が企業やブランドとの関わりを通じて得る体験全体を指します。
広告や検索を通じて企業を知る段階から、Webサイトで情報を調べ、問い合わせや営業とのやり取りを経て購入し、その後に商品やサービスを利用してサポートを受けるまで、複数の接点がCXを形成します。
そのため、問い合わせへの回答を速くすることやWebサイトを使いやすくすることだけがCX改善ではありません。個々の接点が便利でも、前後の体験がつながっていなければ不便は残ります。
たとえば、Webフォームで入力した内容を営業担当者へもう一度説明する状態では、フォーム単体を改善しても体験全体の問題は解消しません。
CXを考える際は、個別施策ではなく、顧客がどの順序で企業と関わるのかを見る必要があります。
変わったのは顧客体験をつくる手段と接点
AI時代になっても、顧客にとってわかりやすく利用しやすい体験を提供するというCXの目的は変わりません。変化しているのは、その実現手段と接点です。
企業は生成AIで問い合わせ対応を支援したり、顧客データから適切な情報を提示したりできます。一方、顧客も生成AIやAI検索で要点を整理し、候補を比較できます。
つまりAI時代のCXでは、企業がAIをどう導入するかだけではなく、顧客自身の情報収集や意思決定の方法が変わっていることも前提にしなければなりません。
顧客体験が変わる理由|企業だけでなく顧客もAIを使い始めている
これまで企業のAI活用では、業務効率化や問い合わせ対応の自動化など、企業側の変化に注目が集まりがちでした。
しかしCXを考えるうえでは、顧客側の変化も見逃せません。生成AIやAI検索が普及することで、顧客が企業へ到達するまでの経路そのものが変わり始めています。
理由1|情報収集の入口が検索画面やWebサイトだけではなくなる
従来、検索エンジンから複数のWebサイトを訪問して情報を集めることは、代表的な情報収集経路の一つでした。現在は、生成AIやAI検索へ質問し、候補や違いを整理する方法も選択肢になっています。
その結果、企業のWebサイトは「人が最初に読む場所」ではなくなりつつあります。
顧客がAI上で概要を把握した後に、価格や仕様、問い合わせ先などの詳細を確認するためWebサイトを訪れる流れも考えられます。
企業側には、従来のSEOに加えて、自社の商品・サービスについて正確で整理された情報を公開する姿勢が求められます。
料金、機能、対象者、利用条件、FAQなどの情報が曖昧であれば、人だけでなくAIにとっても内容を把握しにくくなります。
理由2|AIエージェントが顧客の行動を支援する場面も増えている
生成AIが一問一答にとどまらず、AIエージェントが複数の処理を連続して支援する方向へ進んでいる点も、CXを考えるうえで重要です。
たとえば顧客が条件を伝えると、AIが候補を整理・比較し、次に確認すべき情報を提示できます。こうした仕組みが広がれば、人が直接企業のWebサイトやサービスにアクセスするケースだけを前提に、顧客接点を設計することは難しくなります。
すべての購買行動がAIエージェントへ置き換わるわけではありません。ただし、顧客本人だけでなく、顧客が使うAIが企業情報を参照する場面も想定しておく必要があります。
商品情報やFAQを正確かつ最新の状態に保つことは、人が情報を確認しやすくするだけでなく、AIを介して企業情報が探索・参照される場面を考えるうえでも重要です。
AIによって企業側の顧客理解も変わる
顧客側で情報収集の方法が変わる一方、企業側でもAIを使った顧客理解が進んでいます。
ただし、AIを導入するだけで顧客を正確に理解できるわけではありません。分析の材料となる顧客データを整え、その結果を実際の顧客接点へつなげることが前提です。
分散した顧客データをCXにつなげる
企業には、CRMの顧客属性や商談情報、Web行動、購買履歴、問い合わせ履歴、VOCなど、さまざまな顧客データがあります。
これらが部署やシステムごとに分断されていると、接点ごとに異なる対応が発生します。たとえば営業部門では商談が進んでいるのに、マーケティング部門では見込み顧客向けの案内を続ける状態です。
AIによる分析や判断をCXへ活かすには、参照できるデータ、重複・欠損の有無、顧客を適切に識別できるかを確認する必要があります。AIが不十分なデータを自動的に正しくしてくれるわけではありません。CRMなどに蓄積するデータの品質がAI活用の前提になります。
一律の対応から状況に応じた体験へ
顧客データを活用できれば、全員に同じ情報を送るのではなく、状況に合わせて内容やタイミングを調整しやすくなります。
初めて商品を調べる顧客と、具体的な比較を進める顧客では必要な情報が異なります。購入後も、利用状況に応じてヘルプ情報などを提示できます。顧客の行動や文脈に応じて情報を変えるパーソナライゼーションは、こうしたCX改善と相性のよい考え方です。
ただし、個別最適化を細かくすれば必ずCXが向上するわけではありません。顧客が提供した覚えのない情報まで把握されているように感じれば、不信感につながる可能性があります。利便性だけでなく、データ利用の目的やプライバシーへの配慮も欠かせません。
企業が見直したいのは個別施策ではなく「接点のつながり」
AI時代のCXで特に見直したいのが、Web、メール、営業、サポートなどを別々の施策として考える設計です。
顧客にとって企業との体験は一続きであり、社内の担当部署や利用しているシステムの違いは関係ありません。個別接点の効率ではなく、前後の接点が自然につながっているかを確認する視点が必要です。
Web・メール・営業・サポートを別々に考えない
企業では、Webサイトはマーケティング、商談は営業、購入後の問い合わせはサポートというように担当が分かれます。問題は分担そのものではなく、部署が変わるたびに顧客情報やそれまでのやり取りが途切れることです。
たとえば、チャットで詳しく相談した後に有人対応へ切り替わった際、顧客が最初から内容を説明し直さなければならないとします。AIチャット自体の回答速度が速くても、顧客から見ればスムーズな体験とは言えません。
求められるのは、各接点の性能を個別に高めるだけでなく、前の接点で得た情報を次の接点へ引き継ぐ設計です。オムニチャネルも、単にチャネルを増やすことではなく、顧客が接点を移動しても体験の一貫性を保てる状態として捉える必要があります。
カスタマージャーニーをAI前提で見直す
すでにカスタマージャーニーマップを作成している企業でも、AIを前提として見直す価値があります。
認知、情報収集、比較、問い合わせ、購入、利用、継続といった段階ごとに、「顧客は何を知りたいのか」だけでなく、「どのような手段で情報を得るのか」を確認します。検索エンジンや企業サイトだけでなく、生成AIやAI検索を利用する可能性があるなら、その経路も考慮します。
企業側についても同様です。問い合わせの一次対応をAIが担当するのか、顧客の行動データから次の案内を選ぶのか、営業担当者への情報整理をAIが支援するのかなど、AIが入る場所を整理します。
この作業によって、「AIを導入できるところ」を探すのではなく、顧客が不便を感じている場所にAIを使うべきか、人が対応すべきかを検討できます。AI導入を起点にするのではなく、カスタマージャーニー上の課題を起点にすることがポイントです。
「次に何を伝えるか」まで接点全体で設計する
接点をつなげる際には、顧客が次に必要とする情報や行動まで考える必要があります。
資料を閲覧した顧客に、すぐ営業連絡を行うことが常に適切とは限りません。情報収集の初期段階なら関連情報を提示し、具体的な条件を確認している顧客には相談へ進みやすい導線を用意するなど、状況に合わせた設計が求められます。
顧客データや行動をもとに、各接点を横断しながら次の体験を調整する考え方は「CXオーケストレーション」とも呼ばれます。重要なのは言葉そのものではなく、Web、メール、営業、サポートを独立した施策として最適化するのではなく、顧客ジャーニー全体でつなげることです。
AI時代のCXでは、接点の数を増やすことよりも、顧客がどこから入っても必要な情報へ無理なく進める状態をつくることが大切です。
AI時代のCX設計|AIに任せる接点と人が担う接点を分けて考える
AIを利用できる領域が広がっても、すべての顧客接点を自動化することがCX改善につながるとは限りません。
顧客にとって重要なのは対応主体がAIか人かではなく、目的をスムーズに達成できることです。
そのため、AIが適する場面と人が担うべき場面を分け、必要に応じて自然に切り替えられる設計が求められます。
AIが適する場面|定型的な対応はAIとの相性がよい
営業時間、手続き方法、サービスの基本情報、よくある質問など、回答の根拠が明確で定型化しやすい問い合わせはAIを活用しやすい領域です。
顧客が必要な情報をすぐ確認できれば、窓口の営業時間を待つ必要がありません。企業側も、定型質問をAIに任せることで、担当者が複雑な問い合わせへ時間を使いやすくなります。
ただし、自動回答を導入する場合は、参照する情報を最新に保ち、回答できない質問を無理に処理させない設計が必要です。AIが回答する範囲と、人へ切り替える条件を事前に決めておくことが求められます。
人が担うべき場面|複雑な判断や配慮が必要な場面では人につなぐ
契約条件の個別調整、例外的な手続き、複数の事情が絡む相談、強い不満を伴う問い合わせなどでは、事実を回答するだけでは解決できません。状況を理解したうえで判断したり、相手の感情に配慮したりする必要があります。
ここで重要なのは、AIと人を二者択一で考えないことです。AIが基本情報を確認し、必要な内容を整理したうえで担当者へ引き継ぐなど、それぞれの強みを組み合わせられます。
このとき、AIとの会話内容を担当者が参照できず、顧客が同じ説明を繰り返すのであれば、接点は分断されたままです。AIから人へ切り替えるときも、それまでの問い合わせ内容や顧客情報を引き継ぎ、顧客の文脈を維持する必要があります。
まとめ|AI時代のCXを支えるのは「AI導入」ではなく接点設計
生成AIやAIエージェントの普及によって、顧客が情報を集め、比較し、企業へ問い合わせる方法は変化しています。同時に企業側も、顧客データを分析し、状況に合わせた情報提供や対応を行いやすくなっています。
一方で、CXの目的そのものが変わったわけではありません。顧客が必要な情報にたどり着き、接点を移動しても同じ説明を繰り返さず、必要なときに適切な支援を受けられる体験をつくることが大切です。
そのため企業が最初に考えるべきなのは、「どのAIを導入するか」ではありません。顧客がどこで情報を探し、どこで不便を感じ、データがどこで途切れているのか、AIと人をどこで切り替えるのかを確認することが先です。
AIを個別業務の効率化だけに使わず、顧客データと各接点をつなぎ、カスタマージャーニー全体で一貫した体験を設計することが、AI時代のCXの基本です。
シーサイドでは、各種AIツールの活用に関するご相談も受け付けております。
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