デジタル化が急速に進む現代において、企業と顧客の関係性は大きく変化しています。
かつてはテレビCMや新聞広告といったマス媒体が主流でしたが、今や顧客は自ら情報を探し、SNSで共有し、購買後もブランドとの関係性を維持しようとします。このような複雑化した顧客行動に対応するため、従来のマーケティングモデルだけでは限界がきています。
そんな中で注目されているのが、顧客体験(CX)を軸とした新しい顧客行動モデル、DECAXモデルです。
これは、日本の大手広告代理店である電通デジタルが提唱したフレームワークで、デジタル時代のカスタマージャーニーをより深く、多角的に捉え、企業のデジタルマーケティング戦略を最適化することを目指します。
本記事では、このDECAXモデルの全体像から各フェーズの詳細、具体的な活用方法、そしてそれがビジネスにもたらすメリットについて、分かりやすく解説していきます。
DECAXモデルとは? デジタル時代の顧客行動を捉える新フレームワーク
DECAXモデルは、デジタル時代の顧客行動を「Discover(発見)」「Engage(関係構築)」「Convert(購買)」「Advocate(推奨)」「Xperience(体験)」という5つのフェーズで捉える、新しい顧客行動モデルです。電通デジタルによって提唱され、特に顧客体験(CX)を重視し、継続的な関係性構築と顧客生涯価値(LTV)の向上を目的としています。
従来の主要な顧客行動モデルとして、AIDMA(Attention, Interest, Desire, Memory, Action)やAISAS(Attention, Interest, Search, Action, Share)、SIPS(Sympathize, Identify, Participate, Share)などがあります。
これらのモデルも顧客の購買プロセスを段階的に示していますが、デジタル時代の複雑な行動や、購買後の「体験」や「推奨」といった側面を十分にカバーしきれないという課題がありました。

例えば、AIDMAやAISASは購買までの流れに重点を置いているのに対し、DECAXモデルは購買後の「Advocate(推奨)」や「Xperience(体験)」といったフェーズを明確に定義しています。
これは、SNSの普及や口コミの重要性が増した現代において、顧客が単なる購入者で終わらず、ブランドの「ファン」となり、さらには「推奨者」となることの価値を重視しているためです。
DECAXモデルの最大の特徴は、顧客行動が直線的ではなく、各フェーズが相互に影響し合い、循環することで顧客体験が深化していく点にあります。
単発の購買で終わらせず、顧客との長期的な関係性を築き、データドリブンなアプローチでそれぞれのフェーズを最適化することで、結果的に企業のLTV向上に貢献します。
DECAXモデルを構成する5つのフェーズ
DECAXモデルを理解するためには、その核となる5つのフェーズそれぞれの意味と、そこで顧客がどのような行動を取り、企業がどのようなアプローチをすべきかを深く理解することが不可欠です。
Discover(発見):顧客との最初の接点を作る
「Discover(発見)」フェーズは、潜在顧客が自社のブランドや製品、サービスを初めて認知する段階です。
これは、必ずしも明確な購買意欲を持っているわけではない顧客が、何らかのきっかけで情報に触れることで始まります。
デジタル時代において、顧客の発見経路は多岐にわたります。GoogleやYahoo!といった検索エンジンでの情報収集、FacebookやInstagram、X(旧Twitter)などのSNSで偶然目にする情報、Webサイトに表示される広告(リスティング広告、ディスプレイ広告)、あるいはYouTubeなどの動画広告など、無数の接点が存在します。
企業としては、この「Discover」フェーズにおいて、いかに多くのターゲットオーディエンスに自社の存在を知ってもらうかが重要です。
具体的には、SEO(検索エンジン最適化)・コンテンツマーケティング・SNSマーケティング・Web広告のようなデジタルマーケティング施策が有効です。
このフェーズで重要なのは、単なる情報の羅列ではなく、顧客にとって価値のある情報を提供し、興味を引くことです。
ここでの接点が、次の「Engage」フェーズへとつながるリードジェネレーションの第一歩となります。
Engage(関係構築):顧客との絆を深める
「Engage(関係構築)」フェーズは、Discoverフェーズでブランドを発見した顧客と、より深い関係を構築していく段階です。
ここでは、単なる情報提供だけでなく、双方向のコミュニケーションを通じて顧客の興味関心を高め、信頼関係を築くことが求められます。
顧客は自社ブランドに興味を持ち始めているものの、まだ購買には至っていません。
この段階で、顧客の疑問や懸念を解消し、ブランドの価値をより深く理解してもらうための働きかけが重要となります。
有効な施策としては、顧客の興味関心や行動履歴に基づいたメールマーケティング、製品やサービスに関する詳細な情報提供を行えるウェビナー・オンラインイベント、チャットボット・FAQの実装などが挙げられます。
SNS上で顧客からのコメントやメッセージに積極的に返信したり、ファン同士が交流できるコミュニティを形成することも有効です。
この「Engage」フェーズは、顧客育成の重要なステップであり、顧客が「このブランドは自分にとって価値がある」と感じるような、質の高いエンゲージメントを創出することが成功の鍵となります。
Convert(購買):顧客の行動を促し成果へ繋げる
「Convert(購買)」フェーズは、Engageフェーズで関係を深めた顧客が、実際に製品やサービスを購入したり、契約したりといった具体的な行動を起こす段階です。
ここが、マーケティング活動における直接的な成果に繋がる、最も重要なフェーズの一つと言えるでしょう。
この段階の顧客は、すでに製品やサービスに対する購買意欲が高まっています。
企業がすべきことは、その購買意欲を確実に「行動」へと繋げるための、スムーズでストレスのない購買体験を提供することです。
顧客が迷うことなく購入まで辿り着けるようなUI/UXの実装、CTA(Call To Action)の最適化、決済プロセスの簡素化はCVR向上に繋がる重要な取り組みです。
広告やコンテンツからの流入先となるランディングページ(LP)を置いている場合は、顧客の興味を維持し、購買行動へと誘導するために、製品の魅力やメリットを簡潔かつ魅力的に伝える必要があります。
また、「期間限定割引」「初回購入特典」「送料無料」など、顧客の背中を押すような魅力的な限定オファーは、購買意欲を刺激する強力な手段となります。
さらに、顧客レビュー、第三者機関の認証マーク、セキュリティに関する情報などを提示し、顧客の不安を払拭することも重要です。
このフェーズは、まさにセールスファネルの最終段階にあたります。
顧客がスムーズに、そして安心して購買行動を完了できる環境を整えることが、売上向上への鍵となります。
Advocate(推奨):熱心なファンを育てる
「Advocate(推奨)」フェーズは、製品やサービスを購買した顧客が、その体験に満足し、自発的に他者へ推奨してくれるようになる段階です。
デジタル時代において、消費者の購買意思決定に大きな影響を与える口コミやレビューの重要性が高まっており、このフェーズがLTV向上に不可欠な要素となっています。
顧客がブランドを推奨するようになるには、単に製品が良いだけでなく、購入後の顧客満足度が極めて高いことが条件となります。
推奨活動は、新たな潜在顧客の「Discover」に繋がり、DECAXモデルの循環を促進します。
このフェーズを強化するため、大前提として、顧客が心から満足できる製品やサービスを提供することが重要です。
また、購入後の不明点やトラブルに対して、迅速かつ丁寧に対応することで、顧客の不満を解消し、信頼感を高めることができます。
こうして顧客の信頼や満足度を高めたら、購入した顧客に対して、製品やサービスに関する正直なレビューを投稿してもらうよう促しましょう。
例えば、レビュー投稿キャンペーンや、購入完了メールでのレビュー依頼などが考えられます。
さらに、顧客がSNSなどで自発的に製品の使用感を共有するUGC(User Generated Content)を促し、それを企業のマーケティングに活用します。ハッシュタグキャンペーンなどが有効です。
また、既存顧客が新規顧客を紹介することで特典が得られる仕組みを使った、リファラルマーケティングも有効です。
顧客の「推奨」は、企業にとって何よりも強力なソーシャルプルーフ(社会的証明)となります。
ここでの成功は、新規顧客獲得コストの削減にも繋がるため、非常に価値の高いフェーズです。
Xperience(体験):一貫した顧客体験を提供する
「Xperience(体験)」フェーズは、DECAXモデルの最終段階であり、かつ起点ともなる重要なフェーズです。
これは、単なる購買後のアフターサービスに留まらず、顧客がブランドと接する「あらゆる接点」における全体的な顧客体験(CX)を指します。
顧客が一度購買した後も、長期的に満足し、ブランドとの関係性を維持し続けることを目的とします。
このフェーズの鍵は、顧客の期待を超えるような一貫した質の高い顧客体験を提供し続けることです。
これにより、顧客はロイヤル顧客となり、再び「Discover」フェーズに戻って別の製品を購入したり、積極的に「Advocate」として推奨したりする、DECAXモデルの循環が生まれます。
具体的な取り組みとしては、アフターサービスの充実や継続的なパーソナライゼーションによるリピート購入やアップセル、クロスセルの促進などが挙げられます。
また、アンケート、レビュー、SNSでの意見などを積極的に収集し、製品やサービスの改善、新たな提供価値の創出に繋げることも欠かせません。
「Xperience」フェーズは、企業が顧客と「共創」していく考え方に近く、顧客の声を真摯に受け止め、それをビジネスの成長に繋げていく姿勢が求められます。
この継続的な「体験」の提供こそが、LTV(顧客生涯価値)の真の最大化を実現し、持続可能なビジネス成長の基盤となるのです。
DECAXモデルがデジタルマーケティングにもたらすメリット
DECAXモデルをデジタルマーケティング戦略に組み込むことで、企業は従来のマーケティング手法では得られなかった多くのメリットを享受できます。
これらのメリットは、単に売上を伸ばすだけでなく、企業の持続的な成長と、市場での競争力強化に不可欠な要素となります。
顧客中心のアプローチによる顧客満足度向上
DECAXモデルは、顧客を単なる「購入者」ではなく、「体験者」や「推奨者」として捉えるため、全ての活動が顧客中心主義に基づきます。
顧客一人ひとりのニーズに応じたパーソナライズされた顧客体験を提供でき、結果として顧客満足度が飛躍的に向上します。
満足度の高い顧客は、リピート購入や口コミに繋がり、長期的な関係性の構築に貢献します。
各フェーズの可視化とデータドリブンな意思決定
DECAXモデルは、複雑なカスタマージャーニーを5つの明確なフェーズに分割します。
分割することで、各フェーズにおける顧客の行動や、それに影響を与える要因を可視化しやすくなります。
Web解析ツールやMAツール、CRMなどのデータを活用することで、どのフェーズでボトルネックが発生しているのか、どの施策が効果的であったのかを具体的に分析し、データドリブンな意思決定を行うことが可能になります。
感覚に頼るのではなく、根拠に基づいたマーケティング戦略の策定と実行に繋がります。
LTV(顧客生涯価値)の向上とROIの最大化
DECAXモデルは、一度の購買で終わらせず、顧客との長期的な関係性構築に焦点を当てています。
特に「Advocate(推奨)」と「Xperience(体験)」フェーズの重視は、顧客ロイヤリティを高め、リピート購入やアップセル、クロスセルを促進します。
これにより、顧客生涯価値(LTV)が向上し、新規顧客獲得にかかるコストと比較して、既存顧客への投資が高いROI(投資対効果)をもたらすことになります。
ブランドロイヤリティの強化と競合優位性の確立
一貫した質の高い顧客体験を提供し続けることで、顧客はブランドに対して深い愛着と信頼感を抱くようになります。
このブランドロイヤリティの強化は、価格競争に巻き込まれることなく、企業独自の競合優位性を確立することに繋がります。
熱心なファンは、ブランドの強固な支持者となり、市場におけるブランドの地位を確固たるものにするでしょう。
部門間の連携強化と一貫した顧客対応
DECAXモデルは、マーケティング部門だけでなく、営業、カスタマーサポート、製品開発など、顧客と接する全ての部門が顧客体験を共有し、連携して取り組むことを促します。
この連携によって、部門間の壁がなくなり、顧客に対してシームレスで一貫した顧客対応が可能となります。この連携強化は、組織全体の生産性向上にも寄与します。
DECAXモデルを効果的に活用するための戦略とツール
DECAXモデルのメリットを最大限に引き出すためには、戦略的なアプローチと適切なツールの活用が不可欠です。
適切な戦略とツールの組み合わせによって、企業はDECAXモデルを単なる概念に留めず、具体的な施策として実行し、持続的なビジネス成果へと繋げることができます。
カスタマージャーニーマップの作成と活用
DECAXモデルの各フェーズにおける顧客の行動、思考、感情、そして顧客接点を詳細に描いたカスタマージャーニーマップを作成することは、DECAXモデル活用の第一歩です。これにより、顧客がどこで何を感じているのか、どのタッチポイントでどのような情報に触れているのかを視覚的に把握できます。マップを作成することで、各フェーズにおける課題や改善点を特定し、効果的な施策を立案する基盤となります。
マーケティングオートメーション(MA)ツールの導入と活用
MAツール(HubSpot、Marketo、Pardotなど)は、DECAXモデルの「Engage(関係構築)」フェーズにおいて特に強力な効果を発揮します。顧客の行動データに基づいたパーソナライズされたメールの自動配信、リードスコアリング、Webサイトの訪問履歴に応じたコンテンツ表示など、複雑なナーチャリングプロセスを効率化し、顧客のエンゲージメントを継続的に高めることができます。MAツールは、手作業では難しい大規模な顧客育成を可能にします。

CRM(顧客関係管理)システムの活用
CRMシステム(Salesforceなど)は、顧客情報の一元管理に不可欠なツールです。顧客の購買履歴、問い合わせ履歴、コミュニケーション履歴などをCRMに蓄積することで、各フェーズでの顧客の状態を正確に把握し、個別のニーズに応じた対応が可能になります。営業、マーケティング、カスタマーサポートなど、複数の部門間で顧客情報を共有できるため、一貫した顧客体験の提供に貢献します。

Web解析ツールを用いた効果測定と改善
Google AnalyticsのようなWeb解析ツールは、各フェーズの施策が実際にどの程度の効果を生んでいるのかを数値で把握するために不可欠です。Webサイトのアクセス数、コンバージョン率、ページ滞在時間、離脱率などのKPI(重要業績評価指標)を定期的にモニタリングし、データに基づいたPDCAサイクルを回すことで、施策の最適化を進めます。どのコンテンツがDiscoverに繋がり、どのCTAがConvertに貢献したかを分析することで、継続的な改善が可能になります。
パーソナライゼーション戦略の推進
各フェーズにおいて、顧客一人ひとりの興味やニーズに合わせた情報や体験を提供するパーソナライゼーションは、DECAXモデルの効果を最大化するために重要です。Webサイトのコンテンツ、メール、広告など、あらゆるチャネルでパーソナライズされたアプローチを行うことで、顧客のエンゲージメントと満足度を高めます。
組織体制と人材育成の重要性
DECAXモデルは、単なるツール導入で完結するものではありません。顧客体験を組織全体で追求するためには、部門間の連携を強化し、共通の目標意識を持つことが重要です。また、デジタルマーケティングのスキルを持つ人材の育成や、外部の専門家との連携も不可欠となります。データ活用能力や、顧客視点を持つ人材の育成が、DECAXモデルの成功を左右します。
DECAXモデル導入の例と今後の展望
DECAXモデルは比較的新しい概念ですが、既に多くの企業がその考え方を取り入れ、デジタルマーケティング戦略の変革を進めています。
具体的な企業名を挙げることは難しいですが、業種を問わず、顧客中心のマーケティング戦略へとシフトし、LTV向上を実現している事例は多数存在します。
DECAXモデルを取り入れた例
ターゲット顧客の課題に特化したSEO記事とWeb広告を組み合わせ、質の高いリードを獲得。
製品の無料トライアルと連動したパーソナライズされたメールナーチャリングを行い、ウェビナーを通じて製品の深い理解を促進。
オンラインデモと専任担当者によるサポートで購買への不安を解消。
オンボーディングを徹底し、定期的なカスタマーサクセス担当者からのサポートを提供。
顧客は製品の活用を通じて成功体験を得て、自発的にAdvocateとしてSNSでのレビューや、新しい顧客への推奨を行う。
結果として解約率の低下とLTVの大幅な向上に貢献。
DECAXモデルの今後の展望
DECAXモデルが今後のデジタルマーケティングにおいて担う役割は、ますます大きくなるでしょう。
テクノロジーの進化、特にAIやIoT、VR/ARといった先端技術との融合は、DECAXモデルの各フェーズにおける顧客体験をさらに深化させる可能性を秘めています。
例えば、AIを活用したパーソナライゼーションは、「Discover」段階でのレコメンデーション精度を高め、「Engage」段階でのチャットボットによる顧客対応をより人間らしく効率的にします。
IoTデバイスから得られる行動データは、「Xperience」フェーズにおいて、顧客のリアルタイムなニーズを捉え、先回りしたサポートや提案を可能にするでしょう。
企業は、これらの技術革新を積極的に取り入れながら、常に顧客の視点に立ち、変化するカスタマージャーニーを深く理解し続けることが求められます。
デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する上で、DECAXモデルは顧客中心のアプローチを確立するための、強力な羅針盤となり続けるはずです。
まとめ DECAXモデルで持続可能な成長を実現する
いかがでしたか?
デジタル時代の新しい顧客行動モデルであるDECAXモデルについて、その概要から5つの各フェーズ(Discover, Engage, Convert, Advocate, Xperience)の詳細、そして企業が享受できる多大なメリット、さらには効果的な活用戦略とツール、実践の例まで解説しました。
DECAXモデルは、従来のマーケティングモデルが捉えきれなかった「購買後の顧客体験」や「顧客による推奨」といった側面を重視し、顧客中心主義に基づいたデジタルマーケティング戦略の基盤を提供します。
各フェーズをデータドリブンで最適化し、カスタマージャーニー全体を通じて一貫した顧客体験を提供することで、顧客エンゲージメントを高め、結果として企業のLTV(顧客生涯価値)を最大化することが可能になります。
情報過多の現代において、顧客は単に製品やサービスを「買う」だけでなく、その背景にある「体験」や「物語」を重視しています。
DECAXモデルは、企業が顧客との長期的な信頼関係を築き、熱心な「ファン」を育てるための強力なフレームワークです。
ぜひこのDECAXモデルをマーケティング戦略に取り入れ、顧客との新たな関係性を構築し、ビジネスの飛躍を実現してください。
シーサイドでは、デジタルマーケティングやDXにまつわる課題解決の実績も数多くございます。
お困りやご相談がありましたら、まずはお気軽にお問い合わせください。
