「生成AIを試してはいるが、社内に広がらない」「一部の人だけが使い、成果が属人化している」「PoC(試行)のまま止まってしまう」——。こうしたつまずきは、ツールの性能ではなく、“使い方を会社の仕組みに落とし込めていない”ことが原因になりがちです。
本記事では、会社としての生成AI活用レベルを短時間で自己診断し、レベルに応じた次の打ち手(導入ステップ/定着・社内展開/ガバナンス)を整理します。
生成AIは「導入したか」より「使い続けられるか」で差がつく
生成AIは、導入して終わりではありません。
業務に組み込み、一定の品質で出力でき、成果が安定して出る状態をつくって初めて価値が見えてきます。
重要なのは「どのツールを入れたか」ではなく、どの業務で、どの品質基準で、誰が責任を持って運用するかです。
特にBtoBの実務では、誤りや表現の揺れがそのまま信用に影響します。
だからこそ、生成AIを“便利な個人ツール”として使う段階から、組織で再現できる運用へ進める必要があります。
「一部の人だけ使う」「PoC止まり」が起きる理由
うまくいかないパターンは、次の要因が複合して起きます。
どれか1つでも弱いと、活用は伸びにくくなります。
- 使いどころ(ユースケース)が曖昧で、現場が判断できない
- 入れてよい情報/禁止情報が曖昧で、怖くて使えない(または危うい使い方になる)
- 出力の品質が安定せず、レビューの手間が増える
- 推進役・窓口がいないため、質問が溜まり、熱が冷める
- 効果測定(KPI)がないので、続ける理由を説明できない
これらはツールの問題というより、運用設計とガバナンス設計の不足として表れます。
だからこそ、まず現在地を把握し、次に何を整えるべきかを明確にします。
診断で分かること(現在地/詰まりどころ/次の一手)
診断の目的は“点数付け”ではありません。
現場の体感や担当者の主観だけだと、議論が「便利/不安」「好き/嫌い」で終わりがちです。
診断という形にすると、関係者が同じ言葉で現在地を共有でき、投資判断や社内説明も進めやすくなります。
さらに、生成AI活用は「使える人を増やす」だけでは前に進みません。
使ってよい範囲、確認の仕方、成果の測り方までセットにして初めて、定着・社内展開につながります。診断はその“抜け漏れ”を見つけるための近道です。
目安3〜5分でできる 生成AI活用レベル診断
診断のやり方
次の評価観点で挙げている10問を、0〜2点で評価してください(本記事の診断基準としての目安です)。
- 0点:未整備/実施できていない
- 1点:一部で実施/属人的
- 2点:基準があり継続運用できている
合計点(0〜20点)でレベルを判定します。
- 0〜5点 :レベル1
- 6〜9点 :レベル2
- 10〜13点:レベル3
- 14〜17点:レベル4
- 18〜20点:レベル5
担当者ひとりで採点すると偏りが出やすいので、部門代表(現場・管理・推進)3〜5名で10分だけすり合わせると精度が上がります。
意見が割れた項目は「現状は1点、次の1か月で2点にする」といった改善目標にすると、実務に落ちます。
評価観点(業務適用/情報の扱い/体制/運用/ガバナンス)
業務適用(ユースケース)
- 生成AIを使う業務が、部門またはチームで明確になっている
- 入力→出力→確認→反映の手順が決まっている
情報の扱い(データ・入力)
- 入力してよい情報/禁止情報が整理されている
- 迷ったときの代替手段(匿名化、要約、社内限定環境など)がある
体制
- 推進担当(または小さな推進チーム)が決まっている
- 相談窓口と、回答の目安がある
運用(再現性・品質)
- よく使うプロンプトや手順がテンプレ化されている
- 出力のレビュー基準(品質・トーン・禁止表現など)がある
ガバナンス(ルール・リスク)
- 社内ルール(利用ガイドライン)があり、更新する前提になっている
- インシデント(誤入力・誤共有など)が起きた時の報告ルートがある
スコアの読み解き
合計点が高くても、特定の観点が弱いと停滞や事故が起きやすくなります。
まずは「最も点数が低い観点」を1つ選び、そこに改善を集中させるのが最短ルートです。
全項目を一度に完璧にしようとしないことが、定着の近道になります。
生成AI活用レベルは5段階で整理できる
レベル1:未着手・様子見(情報収集中)
関心はあるものの、目的や対象業務が決まっていない状態です。
まずは「何を改善したいのか」を言葉にし、対象業務を絞ります。
ツール選定より先に、扱う情報の範囲と、やってはいけないことを整理しておくと手戻りが減ります。
レベル2:個人利用が中心
便利さは実感できている一方、成果が個人に閉じ、再現性がありません。
「できる人が増えない」「同じ質問が繰り返される」がボトルネックになります。
レベル3以降へ進むには、個人スキルよりも、テンプレ・レビュー・ルールといった“土台”が必要です。
レベル3:チームで試行
対象業務を決めて試行を回し、手応えが出始める段階です。
ここで止まりやすいのは、品質・責任分担・データの扱いが曖昧な場合です。
「誰が最終的に正しいと判断するのか」「どこからは人が必ず確認するのか」が言語化できると、運用に耐える形へ進みます。
レベル4:部門で運用
テンプレやレビュー基準が整い、部門として運用が回り始めています。
次の課題は、成果の測り方(KPI)を揃え、他部門へ広げるための共通ルールを持つことです。
“部門最適”から“会社最適”へ移れるかが、レベル5への条件になります。
レベル5:全社展開
複数部門でユースケースが定義され、ガバナンスと運用が両立している状態です。
生成AIが“特別な施策”ではなく、業務改善の標準手段になります。
例外対応(イレギュラー処理)も含めて止まらない運用ができているかが、成熟度の分かれ目です。
レベル別「次の一手」ロードマップ
レベル1→2:まずは“使いどころ”を決める
いきなり全社展開を狙うより、リスクが低く、効果が出やすい業務から始めます。
目安は「定型が多い」「入力・出力の型がある」「機密や個人情報に触れにくい」の3点です。
進め方はシンプルで構いません。
候補業務を10個ほど出し、効果(時間短縮)と始めやすさ(情報リスク・手順の明確さ)で並べ、上位3つから試します。
ここで“やらない業務”も決めておくと、現場の迷いが減ります。
レベル2→3:再現性を作る(テンプレ・プロンプトの型・レビュー)
個人の“うまい使い方”を、チームの“回る使い方”に変えます。
テンプレは「前提・目的・制約・出力形式」を固定し、レビュー基準は「正確性・社内用語・禁止表現・トーン」を短く定義するだけでも効果があります。
テンプレを「作って終わり」にしないことも重要です。
使った人が1行でよいのでメモ(良かった点/困った点)を残し、月1回だけ更新すると、テンプレは資産になっていきます。
レベル3→4:運用に耐える形へ
PoCを抜けるには、責任の所在をはっきりさせます。
「誰が最終承認するか」「どこからは人が判断するか」「検証の手順は何か」を決め、プロセスに組み込みます。
個人の注意力に依存しない設計が重要です。
あわせて、出力を“成果物”として扱う以上、保管場所・版管理・差し戻し基準も必要です。
ここが曖昧だと運用が長続きせず、結局「できる人だけが使う」状態に戻りやすくなります。
レベル4→5:全社展開の壁を越える
全社展開では、部門ごとの最適化を“共通化”する必要があります。
順番は次の通りです。
- 最低限の共通ルール(禁止事項・判断フロー)
- 教育の仕組み(オンボーディング、更新情報の共有)
- 推進ネットワーク(各部門の推進役で相談を分散)
この段階で大切なのは、ルールで縛りすぎないことです。
現場のスピードを守りつつ、危ない使い方だけを確実に止める——そのバランスを狙います。
効果測定(KPI)で“やって終わり”を防ぐ
まずは3指標(工数/品質/リードタイム)
最初は「工数」「品質」「リードタイム」の3つに絞ると説明しやすいです。
工数は作業時間、品質は差し戻し回数や修正回数、リードタイムは“依頼から一次案まで”の時間など、現場が追いやすい指標を選びます。
ポイントは、導入前の“基準値”を取っておくことです。
完璧な計測は不要で、まずは1〜2週間分の平均で十分です。改善の方向性が見えると、定着の議論が前に進みます。
定着を見る指標(テンプレ利用率、再利用率)
成果指標だけでなく、定着の指標も持っておくと良いでしょう。
テンプレ利用率や再利用率が上がっていれば、属人的な活用から“仕組み化”に移行できている可能性が高いと言えます。
月1回の振り返りで、数値と運用課題(テンプレ不足、承認待ち、判断に迷う等)をセットで確認してください。
最低限おさえたい社内ルール(ガバナンス・セキュリティ)
入力してはいけない情報の線引き(機密・個人情報など)
ガバナンスで最初に決めるべきは「入れてはいけない情報」です。
曖昧だと、怖くて使えないか、無自覚に危ない使い方になります。
まずは情報を分類し、「禁止/要相談/条件付き可」の3段階で示すと運用しやすくなります。
“条件付き可”を運用するコツは、条件を行動に落とすことです。
たとえば「固有名詞は伏せる」「数字はレンジにする」「要約してから入力する」など、現場が迷わない形にします。
禁止だけを並べるより、代替手段までセットにしたほうが活用は止まりにくくなります。
著作権・引用の基本
外部公開する文章では、公開前の確認が欠かせません。
生成AIの出力を“完成物”として扱わず、必ず人が確認する運用にします。
実務では「出典確認」「引用ルール」「類似表現チェック」を工程として入れ、制作フローに組み込みます。
レビュー観点が定義されていれば、確認の手間や読み違いが減ります。
迷った時の相談先
例外は必ず出てきます。
「迷ったら推進窓口へ」「この種類のデータは情報管理担当へ」など、相談先と判断フローを明確にして、止まらない運用にします。判断が属人化すると、活用は一気に鈍ります。
まとめ 自社の生成AI活用レベルを“次の行動”に変える
いかがでしたか?
生成AIの活用レベルを測る設問から、次のレベルに上がるための指針、生成AI活用において最低限守るべきルールなどを解説いたしました。
まずは本記事で紹介した診断を行い、最も点数が低い観点を1つ選ぶところを見つけてみましょう。
あなたの会社の生成AI活用レベルは、いま何段階でしょうか。
現在地が見えれば、次の一手は具体的になります。
まずは自社の状況を客観的に診断するところから、着実に進めていきましょう。
シーサイドでは、生成AIツールの活用に関するご相談も受け付けております。
お困りやご相談がありましたら、まずはお気軽にお問い合わせください。
